施工事例 vol.7

真宗大谷派 願興寺

檀家がもっと積極的にお寺を
選ぶようになっても良いのではないか

願興寺のある新潟県長岡市でも、お寺を取り巻く状況は大きく変化している。相対的にはまだ圧倒的にお墓を求める人が多く、基本的には先祖代々の家のお墓を子孫が継承していくということを前提にしている人が多い。それでも「後継者がいない、あるいはいても当てにならないという声がたくさん出てきている」と、高橋住職は永代供養墓建立について次のように語る。

「昔は家制度がしっかりしていたから本家が分家のお墓も面倒を見るなどのサポートもできたが、いまはそ写真:願興寺・高橋悉住職れが崩れてきている。このような状況を見て、10数年前からこれからのお墓のあり方を考えていかなければいけないと感じていた。直接の血縁はなくても、お寺が中心となって縁のある人同士が供養をし合える、気持ちよく入れる場所を造りたかった」
願興寺の永代供養墓は、盛土をして造った小高い丘に合祀墓と個別墓があり、全体でひとつのお墓というコンセプトとなっている。2mくらい土を盛ることで、全体に立体感と一体感を生み出した。

 

丘の頂上にある永代供養墓は、骨壷で個別に納骨する合葬墓と、焼骨を最初から合祀する合祀供養墓が一体となっている。この永代供養墓を中心として、半径の異なる3つの円を描くように、丘の斜面には個別のお墓が並ぶエリアが3つ用意されている。合葬墓は約250体のお骨を収容でき、納骨後は氏名や没年月日などを記した高さ15cm程の墓碑が立てられる。一方、個別墓は1m四方と75cm四方の2種類の区画が、合わせて約200区画ある。
利用者の事情に合わせてその形態は選べるが、個別墓も合葬墓も、最終的にはすべての遺骨が合祀供養墓に入ることが前提となっている。後継者がいない人のために、安心して遺骨を任せられる場所を提供すると同時に、すべてのものは土に還るという「倶会一処」を具現化したものであるという。
個別墓を用意したことについては、高橋住職は「この辺りには、たとえ小さくても自分のお墓が欲しいという人が圧倒的に多いから」と説明する。個別墓には、夫婦墓と家族墓とがあり、形状は一般的なお墓と変わりがないが、申し込みの時点から使用期限は定められている、言うなれば期限付きのお墓である。
継承者が絶えたらすぐに合葬するのではなく、そこから数えてあらかじめお寺との話し合いで決めた年月は、お骨は個人墓の中で夫婦そろって安置される。例えば夫婦のみの家庭など、先を考えたときにお墓を造っても良いのかどうか、造った後にどうなるのかという不安を感じている人に、「お墓を造っても良いですよ」と後押ししてあげるのがこの個人墓である。

写真:願興寺「清風精舎」全景
「清風精舎」全景
写真:願興寺「合祀墓」
合祀墓の回りには、個別墓が設けられている
写真:願興寺「合祀墓」納骨室
合祀墓内部は250体のお骨を収容。手前丸いスペースが合祀スペース

自分も入りたいと思えるような永代供養墓

「清風精舎」建立に当たって、高橋住職が最もこだわったのは、合祀の意味づけだという。
無縁の墓であっても、制度としての家が絶えたというだけであって、その人のいのちに変化があったわけではない。すべてのいのちが意味のあるものとして、縁のある人皆がお参りできるようにしなければならないという思いである。とは言え、境内の片隅にある草が生い茂った墓地へのお参りはしづらい。そのためにも、「非常に分かりやすく言えば明るく、豪華にした」というわけである。
「『これだけ綺麗で皆もお参りに来るのであれば、入っても良いかな』と思えるようなイメージを、生きている人に与えることが出来れば、私の目的は達成できたことになる」と言う高橋住職は、この思いを形にするまでに、実に3年の月日を費やしたそうだ。
永代供養墓の申し込みには、門徒以外の人のために一般会員という資格も用意されており、国籍も含めて一切を問わない。ただし、利用に当たっては高橋住職と面談を行い、お墓に対する考え方はそれぞれある中で、双方が納得し合えることが条件となる。管理費などの面で門徒会員と多少の差はあるが、最大の違いはフリーであるということ。事情があればやめたい時にやめられるという点だ。
「これまでの寺檀関係では、お寺が檀家を選んでいたが、これからはお寺が選択される時代が来る。その中で、檀家がもっと積極的にお寺を選ぶようになっても良いのではないか」というのが高橋住職の考えである。その中で、お寺の側から人々にどのように働きかけていくかということが重要な課題となる。
「永代供養墓は、それを売って利益を得ようというものではなく、お寺のセールスポイントである。これまでお寺と縁の無かった人に対して、こういうお墓の形態がありますよと、きっかけを作れる。だから、申し込む人が訪れれば、ただ石屋さんに任せてお墓を建てさせるのではなく、お墓にどういう文字を彫りたいのかとか、話をしていきたい。そこで檀家になってもらえれば嬉しいし、そうでなければ何故なりたくないのとかという具合だ。檀家になる意味が分からないとか、お寺との付き合いは大変なのではないかとか、それぞれの人によって、持っているお寺に対するイメージも異なるだろう。そこで、どういう話が出来るのか、例えばそういったマイナスのイメージを払拭できるのか。つまりは、お寺としての情報をどれだけ流せるかということだ」
お寺で執り行う具体的な永代供養の方法としては、秋彼岸とお盆を中心に法要を執り行う。このとき、縁のある人には皆に連絡をしてなるべく多くの人に集まってもらう。さらに、自分たちで永代供養墓のスペースに花や木を植えたりと、参加型の供養を通じて仲間同士の関係を持ってもらいたいという。それに合わせて、お墓を含めたさまざまなことに関する文化講演会やコンサートなどのイベントもお寺が主体となって開催する予定である。このような活動を通じて、直接血縁関係のある縁者がいなくても仲間はいるということ気持ちを共有できるようにしたいと話している。

株式会社 鎌倉新書「仏事2009年9月号」より