施工事例 vol.11

日蓮宗 妙法寺

コンシェルジェのように、檀信徒の希望をお寺の方針へ

昨年の11月に改修を終え、約800体の遺骨を個別に安置できるようになった同院の永代供養塔の原型は、先々代住職が世界全体の霊や水子供養などさまざまな霊を供養するために昭和56年に建立した観音像にさかのぼる。

昨年の11月に改修を終え、約800体の遺骨を個別に安置できるようになった同院の永代供養塔の原型は、先々代住職が世界全体の霊や水子供養などさまざまな霊を供養するために昭和56年に建立した観音像にさかのぼる。

住職の父でもある先代住職はその観音像にカロートを併設し、永代供養塔としての役目も持たせ写真:専正寺・廣橋隆正住職た。先代住職が常日ごろから口にしていたが、「永代供養は、寂しく、悲しいものではありません。私もいずれはこの供養塔に入ります。そのため、無縁にはなりません。だからみんなで入りましょう」という言葉だった。実際に先代住職の遺骨は分骨され、永代供養塔の中に檀信徒の遺骨とともに安置られている。「母の遺骨も永代供養塔に安置しているし、私自身も同じように永代供養塔に入ることを決意している。歴代の住職がそこに入るならば、将来の住職も永代供養塔を粗末にすることはなく、寺全体として永代供養塔をきちんと守り続けていく証明にもなるだろう」と住職は語る。
永代供養塔の改修に当たっても、住職は先代住職や自分がどのような所に眠りたいか、つまり実際に利用する立場の人がどのようなところに眠りたいのかということを最も重視した。「永代供養塔には、内部に白い遺骨がずらりと並んでいて、暗くて陰気でおどろおどろしい、と思われているかもしれない。そうしたイメージを払拭して、次の人生で住むならこうしたところがいい、と誰もが思ってくれるような、明るくて綺麗な終のすみかにしたかった」と住職は語る。

ロッカー式の納骨壇が並ぶ永代供養塔2階の天井は、光をふんだんに通す色付きのガラスで、内部まで明るい光が差し込んでいる。納骨壇のそれぞれの扉は大理石から作られていて、名前などを刻むことができる。中にはハートマークをアレンジした紋章を刻んだものもあり、故人の生前の姿と、故人に向けた遺族の思いをうかがわせる。
「納骨室にあまりにふさわしくないものは遠慮していただくが、最大限、利用者の要望に応えるようにしている。生前に申し込んだ際などには、夫婦とその子供が来て、『お父さんたちには、どんな模様が似合うと思う?』という会話をしていたこともある」という。個人だけではなく、夫婦や家族用のカロートもあり、さまざまな要望に応じるこができる。永代供養塔の1階は骨壺を並べる形で遺骨が安置できるため、多くの人が利用できる。金銭的な面で境内のお墓や、ロッカー式の納骨壇を購入するのが難しいという人を、特に対象としている。困っている人には、「費用は出せるだけでいいので安心して欲しい」と伝えているという。位牌堂は別にあり、位牌のない方は過去帳に名前をまとめている。無縁の人にも、生きた証を妙法寺にずっと残せるように配慮されている。
永代供養塔を守る観音像も慈母の像で、温かいイメージのピンク色の石を使っている。永代供養塔は本堂のすぐ横に設置されていて、同院が面する大通りからもよく見え、また同院の前にあるバス停などから見上げると、まず目に入る位置になっている。そうした注意を惹きやすい位置であることもあり、寺を訪れる檀信徒の中には、自分の家族が入っているわけではないのに観音像に塔婆をあげたり、線香をあげたりする人もいるという。「永代供養塔とはいっても、誰からもお参りされないのは悲しく寂しいことだから、私たちが皆で供養していこう」という気持ちからだ。先代住職から住職に伝わる、「永代供養塔は個で守るのではなく、寺に関わるすべての人々で守っていこう」という思いが、檀信徒まで広く伝わっていることの表れだ。

写真:専正寺「憶昔廟」全景  写真:専正寺「憶昔廟」全景

柔らかく光めいた永代供養塔の中

地域に密着したお寺本来の姿を目指す

「興福寺で行われた阿修羅展には合計で数万人が訪れた。その人たちは、美術品を見に行っているだけではない。手を合わせる気持ちは心のどこかにあってあれほど多くの人の関心を呼んだのだろうが、彼らのどれだけがお寺を訪れたのか。仏教には期待しても、お寺には期待していないという現実を変えるためには、日常のお寺の活動を1つ1つ工夫して、誠意を持ってやっていくしかない」と住職は語る。
同院が頒布しているパンフレットにも、そうした工夫が見て取れる。「パンフレット1枚作るのに費用は掛かるが、有名なファッションブランドをイメージして作っている。」と語る。そうした地道な取り組みが関心を引いてか、同院にはさまざまな相談のメールが来るという。「最初はインターネット上の仮名を使っている人でも、真摯に対応していると、実際にお寺に来られ、すごく真面目な方だったりする。自覚している部分では気軽な気持ちだったとしてもお寺にコンタクトを取ってみようと考える方は、やはり深いところでは真剣に物事を考えている方が多いのではないか。葬式に持っていく香典の封筒の表になにを書いたらいいか、という相談のメールが来たりもするが、きちんと返事を返している。小さなご縁にもきちんと対応していくことを続けていくしかないし、そうした身近な相談をできるのがお寺の本来の姿なのでは」という。住職が目指す檀信徒への関係は、「高級ホテルにいるコンシェルジェ」。アンケートで把握できた檀信徒の家族構成などの情報は、檀家管理ソフトで一元的に管理している。葬儀の様子なども丁寧にメモしておき、話し掛けると、檀信徒の方も打ち解けてくれることが多い。目指すのは電話で声をお聞きしただけで「こんにちは〇〇さん。お父さまのお加減はどうですか」と話し掛けられるぐらいまでに、檀信徒と密着した関係を築くこと」だという。アンケートを行う際には、「怖い部分もあった」という。ただ、「そこから目を背けたら駄目だと思った。こちらからコミュニケーションを取ろうとしなければ、知らない間に疎遠になって離れていくということになる」という思いが、その恐怖に耐えても、檀信徒の本当の声を知ることを選んだ。住職は檀信徒から帰ってきたアンケートに対して、すべて返事を書き、約2か月の時間がかかったという。アンケートの3位以下には「法事の際に座敷に胡坐や正座で座るのはつらい」「ペットのお墓が欲しい」という意見が続いているが、今年は院内をリフォームし椅子で食事ができるようにした。また来年はペット用のお墓も建立する予定だという。