施工事例 vol.10

真言宗 御室派 紫山 無量壽院

檀家向け供養墓でさらなる絆を結ぶ

「檀家寺は外に出て行かなければ仕事にならない。札所や観光の盛んなお寺ではない。医者でいえば往診ばかりだが、それがこの寺の役割だと思っている」 そう語るのは高松駅から徒歩15分ほどの場所にある、真言宗御室派紫山無量壽院の大井幹雄住職。同院は739年に行基が開山したと言われる長い歴史を持つが、戦火などに見舞われ何度も場所を変遷。17世紀に現在の場所に移るが、1945年に空襲により再び全焼。文化財を含めたすべての建造物が失われながらも、戦後同地に再建、現在に至る。
写真:専正寺・廣橋隆正住職

同院が永代供養墓を造ったのは2010年の10月。大日如来と8つの仏舎利(ストューパ)をイメージしたデザインになっている。「真言宗でその根本となる宇宙をも表す仏様は大日如来なので、永代供養墓にもこれは外せない。球の部分は宇宙をイメージしており、永代供養墓に供養することが宇宙に帰ることでもある。基本的な概念でいえば輪廻転生。お骨は無機質になるが、私たちの肉体の一部になってまた帰ってくるというイメージ」 8つのストューパは納骨を行う場所でもある。「ストューパはお釈迦様の骨を納める場所であり、仏様を祭る塔、お堂でもある。納骨するところとして、ぴったりと合致した」

建立後の利用者の反応として意外なことが2つあったという。1つ目が、半年で20件ほどの申し込みにつながったことだ。「お寺がある限りは供養するのが永代供養墓。30年50年の間だけ持つようでは駄目で、より長いスパンで供養していくものだと考えている」と語る。もう1つが、墓誌代わりのプレートが好評だったことだ。「永代供養墓を利用される方が気にされているのは納骨することかと思っていたが、『ここに納めた』という印を必要としてプレートを申し込まれる方が多い。残された者にとっては生きた証が必要なのだろう」

住職には、永代供養墓によって檀家や葬儀を増やそうという考えはない。「檀家さん以外の方の申し込みを意図するなら、情報発信をしなければならない。HPなどに出すなどすれば、反響はあるだろうと思うし、新しい時代になってくるとそうしたことも必要になるのかもしれない。だが今のところは、積極的に永代供養墓の存在を打ち出していくつもりはない。あくまで檀家さんの不安を取り除くためのものだと考えている。檀家さんから言ってもらうのは、『最後のところをカバーしていただいて、本当にありがたい』ということ。今回の地震だけではないが、『いつ何が起こるか分からないため安心しました』という檀家さんが多い」?建立を機に積極的に発信して檀信徒を増やすのではなく、地方のお寺が地域の縁を太くし、今の檀信徒との関係をより密着したものにするための永代供養墓。その可能性を住職は提起する。

写真:専正寺「憶昔廟」全景 写真:専正寺「憶昔廟」全景

区切られた空間で祈りの場を色濃く