施工事例 vol.4

施工事例 Vol.4 CASE STUDY Vol.4

曹洞宗 新井寺


ストゥーパをモチーフにしたデザイン。
使う人の気持ちに寄り添う永代供養墓。



新井寺の永代供養墓は、本堂の左側をぬけたところの墓域最奥部に、境内を見守るかのような佇まいで建立されました。 六角形の塔の上にストゥーパ重ねた納骨塔、その手前に観音像、そしてさらに手前には献香と献花のためのお参り壇、向かって右には納経塔となっています。

遺骨は、塔の後の扉を開けて納める形式。内部の壇には、骨壺のままで約70の遺骨を納めることが可能です。 塔の周囲には、ミニ墓石を安置するためのスペースが階段状に巡っています。その周囲には、草花を植えるための花壇があり、石材の堅牢なイメージに加え、優 しい、柔らかい雰囲気をつくるのに一役買っています。 お参り壇には、永平寺七十八世の宮崎奕保禅師の筆による般若心経が刻まれています。また、この壇の下部には、骨壺を使わない納骨を希望される方の合葬ス ペースもあります。 また納経塔があるのも、新井寺の永代供養墓の特徴です。

納経塔は、モダンなデザインとなっており、合掌の手のひらの中に「空」と刻まれた宝珠を包み込むかたちとなっています。正面には窓がついており、納 経はそこから行います。 永代供養墓は、墓域でも特に開けた場所にあり、また塔の後には桜の木があるなど、明るい雰囲気のお墓となっています。

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合掌した手のひらの中の「空」と刻まれた宝珠。
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永平寺七十八世の宮崎奕保禅師の筆による般若心経が刻まれている。
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前から見た納骨塔。
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ストゥーパをモチーフにした納骨塔前景。
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全体のイメージを損なわない石を使った扉を使用。
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内部の檀には、骨壷のままで約70の遺骨を納められる。

 

松井住職は、以前から、無縁墓という言葉にどうも違和感があったと言います。「無縁という言葉は、どこか淋しい。
埋葬された後は、なんかほっぽっとかれるような感じがする。仏さんに対して、失礼だと思う」というのです。 永代供養墓を建立した原点はここにあるという のです。 「だから『永代供養』という言葉が大切。自分たちのいのちの根源であるご先祖様を無縁にしてはならないと思うのです。ご先祖様のために、そして 人様のために手を合わせさせていただくのが永代供養墓」と言います。もちろん、核家族化や少子化などの社会的背景も理由のひとつですが、そんな思いが建立 の大きなきっかけとなったようです。

しかし建立を思い立っても、実際に着手するまでは3年近い月日を費やしたといいます。どんな形態のものにするかを考えるため、いろいろな永代供養墓 を見学しましたが、「どうも、どれもピンとこなかった」というのです。 「何か物足りない、何か物足りない」という思いがあるのですが、それが何なのかが わからず、時間だけが過ぎていきます。この時点では、壇信徒には永代供養墓の話をしてあり、既に予約をしている人もいました。

この時期に紹介されたのが有限会社川本商店です。「川本さんは、永代供養墓の資料をたくさん持ってきてくれて、それを元に勉強しました。そしてこち らの考えを伝えて、川本さんに提案してもらいました」と言います。 また松井住職だけでなく、副住職もこの計画に参加しました。「副住職は、女性というこ ともあり、私たちの気づかないいろんな気遣いができます。永代供養墓についての勉強もかなり熱心にしていたので、かなりの部分を副住職に任せていました」 と住職が言うほど、今回の計画においては重要な役割を果たしました。

全体のデザインを決めるのも大変でした。他の永代供養墓でもっとも気になっていたのが、「他は長方形のものが多いが、どうも心惹かれない」というと ころです。そこで、塔自体を六角形にして、さらにその上をストゥーパをモチーフにしたデザインにしました。「こうすることで、仏さまがいらっしゃるという 気持ちになれます」と松井住職は話します。

「ここに入る人、ここにお参りに来る人の気持ちになって考えるということが、建立にあたって大切にしていたことでした」と話すように、利用者の立場に立ってなされた工夫が随所に見られます。
例えば前述の、ミニ墓石もその工夫のひとつです。実は、新井寺には、この永代供養墓を建立する前にも、納骨堂がありました。10数年前に建立したものでし たが、この納骨堂は、中に入って遺骨の前まで行くことのできる形式でした。それに対し、新たに建立する永代供養墓は遺骨の前までは行けず、直接手をあわせ ることができない形式です。お参りの人の中にはもしかしたらそれを残念に思う人がいる可能性もあります。そのため塔全体に手を合わせるという形式を採用す ることは、「断腸の思いだった」(副住職)と言うほど、苦渋の決断だったようです。

しかし、このミニ墓石の提案によって、そうした悩みが一気に解決していきます。 ミニ墓石の内部には、遺骨の一部を分骨できるようにもなっていま す。それで、遺骨に向かって直接手をあわせることも可能となりました。 ちなみに墓石には戒名を刻みますが、それは事ある度に「仏さまの供養の第一歩は、 お戒名をおがむこと」と説いている松井住職の理念が根底にあります。 「それに墓石があると、『お墓を買った』という感じなりますしね」(副住職)という こともあるようです。

お参り壇の下の合祀スペースは、500~600の遺骨が納めることができるようつくられました。ただ、「骨壺からザザザッと遺骨をあけてしまう合祀 の仕方が多いが、どうしてもそれがいやだった」(副住職)ようで、それをどう解決するかも課題だったと言います。いろいろ考えた結論は、骨壺からただ出す のではなく、遺骨をサラシに包んでから納める、ということです。

また、合祀のスペースが、人の歩く場所の下に来ないような配慮もされています。 新井寺の永代供養墓には、こうしたオリジナルの部分が多くあり、それはこれを使う人の気持ちになって、安心してお参りできるよう、安心して入れるようにした配慮なのです。
永代供養墓が完成してすぐに発行された寺報「あきばさん」には、次のような言葉が記されています。

永代供養墓が完成しました
お墓参りができなくなっても
お墓参りをする人がいなくなっても
供養する人がいなくなっても 心配はいりません
お寺がま心と責任をもって 永代にわたり
ご供養・護持管理させていただきます

松井住職は、永代供養墓が完成して次のように語っています。「この永代供養墓は、信仰心のある人に利用してもらいたいですね。ご先祖様は、自分たち の命の根源です。それを拝むのが永代供養墓。そして、ご先祖様を拝みながら、新井寺の行事にも参加してもらって、生きた信仰生活ができるようになって欲し いのです。仏教を日常生活の中に生かしてもらいたいのです。そうすることで、心が豊かで、安らかになります。この永代供養墓に縁を結んでいただければと 思っています。」
新井寺の永代供養墓は、供養だけではなく、信仰を育み、安らかに生きていくための永代供養墓なのです。